妄想痴漢電車
あたしは今、手コキしています。
電車の中で、オチンチンの持ち主に、大事なところを指でクチュクチユと掻き回されて。
向かい合って、半身を重ね合うようにひたりと寄り添い、空いた腕を相手の背に回して、
まるで、一分一秒離れられない恋人同士のよう。
でも本当はそんなんじゃない。
あたしのあそこを弄び、あたしに手コキさせてるその人は、痴漢なんだから。
それは本当に日常どこにでもある光景だったわ。
友達から借りた、けっこう際どい描写が売りの小説を、夕方の少し混み始めた電車の中で読んでいただけ。
周囲から見られないように、連結部の扉の方を向く感じで、隠れ読みしてた。
今回はそれまで、そういう行為とは縁のなかった主人公『姫』が、敵に捕われ、
あわや処女を失くす寸前まで凌辱されるシーン。
鎖で繋がれた姫が、一枚一枚衣服を剥がれ、大事なところを敵の大将に覗き込まれ、
なめ回され、乳首が勃てば、自らの舌で舐めさせられ、濡れれば部屋中に響くような水音を立てられてそれを嫌でも知らされ、気高い心をどんどん踏みにじられていく様が絶妙な文章でねっとり綴られて。
繊細なガラス細工を思わせるような線使いで有名な漫画家の妖艶なイラストも、すごく興奮を掻き立てる。
あたし達読者の中では、国ののために戦う姫よりも姫欲しさに国を侵攻する敵国の大将のが人気があって、寧ろ大将やっちゃえっていう気持ちだった。
だって大将は姫が好きなんだもの。姫の記憶の片隅でいい。それがどんな感情と結び付いていてもいい。自分という男の存在を残したい。
そんな想いの果ての凌辱だったから。
そんなの、素敵すぎるよ……大将。
『君がこの……に迎え入れたい、そう願う異性はどんな男?』
大将が姫に問い掛ける。
ああ、そんな事言われてみたい、されたい……どんなにふしだらで、背徳的で、とても素敵な蜜事。
あたしが迎えたいのはあなたのような人なの。
二次元人へのたあいもない嫉妬と行き過ぎた想いが、脳から現実の全てを焼き切った。
『奪ってあげる』
大将の声が耳の奥でこだました。
目が字面を追い掛ける作業を中断した。
目の前の景色が歪んで遠くに消え去り、絶え間無いきぬ擦れの響く広い石造りの部屋……姫が凌辱されているその場にあたしはいて、姫の替わりに激しい愛撫を受けていた。
あたしの胸をまさぐり、揉みしだく生々しい大将の掌。
あ、そんな激しくしたら、ダメッダメなの……乳首いきそ………っ。
閉じた脚の付け根に想いのたけを宛がうと、一気に押し入ってくる。
やっ、やんあたし処女なのっ処女なのよ……っ言わないで、分かってるの、でも濡れちゃうんだもん…。好きよ、大将……っ。
激しい突き上げにあたしは一瞬で白い世界に上り詰めた。
啜り泣くようなため息を漏らし、余韻に浸る。
また夜に……ね、大将。夜ならもっとすご
「お嬢さん、欲求不満?」
知らない人の声に鼓膜を揺さぶられ、あたしは甘く淫らな妄想から現実に引き戻された。
心臓がまるで全力疾走したときみたいにドキドキして、体中の血の気がひいてこめかみに酸っぱいものが走る。
なに?なんで?あたし扉のほう向いてた。
出したかった声も殺してた。
あたし、周囲にわかるような事してないよっ。
動揺を隠して言い募る。
「なんですかそれっ」
ひどい言い掛かりです、そう言おうとして、黒い袖があたしの手を指しているのに気がついた。
「ほら」
あ……。
ひいた血潮が違う熱に再度沸き立つ。
あたしはあの、それ以上描き込んだら間違いなく猥画の、頬にキスされ、きりりと閉じた目尻から涙を零す姫のそこから腿に露が滴るイメージのイラストを広げたまま、脳内セックスに耽っていたの。
見られた……。
いや……嘘でしょ?
黒い袖から生えたごつごつした手が両脇からあたしのおっぱいを掴む。
制服とブラジャーに隔てられ、守られているのに、あたしのおっぱいは掌の熱を感じ、自分以外の体温に反応して、乳首がキュンと勃っていた。
「いい反応だね、はちきれそうだよ君のおっぱい」
掌が、指が、おっぱいの感触を楽しむようにやわやわと動き始めた。
いや、嘘、嘘、あたし、知らない人におっぱい触られてる、どうしよう、どうしよう。
逃げなきゃ。
手を振りほどこうとして掌に手を添えた。
「どうしたの?」
男に問われ、やめてくださいそう言おうとしたのに、口から真逆の言葉が漏れた。
「このままじゃやだ…」
……なにいってるの!?あたし、変だ。
こんなの恥ずかしい、駄目、止まってよ、やめてお願い、感じちゃうから。
あたしまだこんなの覚えたくないよ。
「素直だね、いい娘だ」
セーラー服の裾から温かい掌がはい上がってきて、フロントホックのブラを外した。
役目を果たすことを放棄したブラジャーの代わりに、掌がおっぱいを包み込む。
乳首を摘まれてクリクリされただけで、体の力が抜けて、唇から吐息が、あそこからやらしい液体が溢れ出した。
「感じてるんだ?」
あたしはこくんと頷いた。
下を向いた拍子に、襟元からおっぱいに張り付いた掌が、親指と中指で乳首の根っこを摘み、人差し指の爪で乳首の頭を掻いているのが見えた。
自分の身体、しかも大切な部分が知らない人の掌で、形を変えられ、新しい感覚を知り始めている。
ぞくっとした。
これ……すごい感じる……今度一人でするときしてみよう……。
無意識のうちに、連結部の扉に両手をついて、背後の黒い袖の主にお尻を突き出すような恰好になって内腿を擦り合わせていた。
「君、もしかして底無しの淫乱?」
黒い袖の呆れた声。
そうかも知れない。
でも認めたくない。
疼く身体が、濡れるあそこが、こんなに怖いのに、これ以上ヘンな事されたくないのに。
やめてくれたらあたし訴えたりしないよ、だからお願い、もうやめて。
おっぱいを弄んでいた掌が離れた。
やめてくれた……よかった。
ありがとう、そんな場違いな言葉が唇から出かかったその時、あたしは扉と黒い塊に挟まれていた。
痴漢に身体を押し付けられた、そう悟るのに数秒ほど時間を要した。
そこにいたのは、色の薄いサングラスをかけた、身嗜みのきちんとしたおじさんだったから。
間違えても外回りと称して営業車の中で昼寝したり、部下と上司の板挟みで悩んだり、禿げたり、あちこちで頭を下げるのが仕事じゃない、人の上に立ち、人を使う立場の人。
この前もどこかの大学の偉い先生が生徒にヘンな事して捕まったとかニュースでやっていたし、やっぱりそういう上流の人って、どこか鬱屈してるんだな、そう納得する反面、その相手が、なんであたしでなきゃならないの?
どうして?どうして?
わからないよ。
答えを求めて、サングラスの中を覗き込んだ。
サングラスの向こうの目は見えなかったけど、黒いガラスに映る、少し乱れた短いポニーテールのスケベな女子高生ははっきりわかった。
汗ばんだこめかみ。紅潮した頬。誘っているような潤んだ瞳。半開きの唇。
そんな……。
「いい貌だよ」
サングラスの唇があたしの唇に重なった。
知らないおじさんと、こんな満員電車の中で……こんなのが……ファーストキス。
あたしの中で一生付き纏う思い出。
嫌、こんなの間違ってる……。
おじさんの手がスカートを捲くりあげて、パンツの中に掌を差し入れて来た。
中指で溝を撫でて、濡れた指でクリをこねる。
おじさんが唇を離した。
「凄く濡れてるよ」
「いや……ぁ」
言わないで、言わなくてもわかってるよ。
だってぴちゃぴちゃ、クチュって、水音聞こえるもん。
あたし、感じてるのわかったから、やめて、聞かせないでよ、こんなの。
なのに、喘ぐ度に擦れる乳首の先っぽが、弄られてる所が熱くて、あたしは目を閉じてされるがままになっていた。
あたし、こんなになって……どうなっちゃうんだろう……。
せめて最後の一線だけは
「あっ」
それまで溝をなぞっていた指が奥深くを刔った。
噂に聞く抵抗もなにもない、ぬるんとした感触。
あまりに呆気なくあたしの下の口はおじさんの指を迎え入れていた。
入っちゃった……そんな……こんなのないよ、あんまりだよ。
「あ……ああ……」
それでも、あたしのあそこは悦んで濡れ濡れと蜜を零し、半分腰が抜けたみたいに脚に力が入らなくって、扉にもたれ、おじさんの手に支えられてるみたいな恰好になった。
「触ってみる?」
おじさんがだらりと下がったままのあたしの手をとり、どこかに導く。
手に余る、大きくて熱い、硬い何かを握らされた。
押し殺したようなおじさんのため息に、手に触れたものが何かわかって息を飲んだ。
「ひ……ぃ…っ」
これ、オチンチンだ……。
もうやめて、あたしスケベなのわかったから、もういいでしょう?
手を離したいのに、身体が拒否した。
包み込むように握り直して、そっと撫で始める。
やだ、やだあたしおじさんの扱いてる。
汚いのに、気持ち悪いのに。
「ゆっくり扱いて……そう、そうだ、上手いよ」
あたしの中のおじさんの指が、動きに併せて挿入を繰り返す。
嫌だよこんなの……まるで、オチンチン挿れられてるみたいだよ……。
なのに、あたしは力無く喘ぎ、おじさんが指を増やした。
「気持ちいい?」
「うん……もっと…したい」
なんで……やめてください、そう言いたいのに。
もうやだぁ……。
おじさんが親指でクリを弾く。
「はっ……あ、あ、あぁ……」
身体が跳ね上がり、あたしは初めてオナニー以外の絶頂を迎えた。
「俺もそろそろ」
おじさんが、パンツから指を抜いた。
腰を密着させてきて、腿の付け根にオチンチンの先端を宛がう。
やだ、やだ。やだ。
わけもわからずおじさんに縋り付いた。
「挿れたらまずいから」
スカートの中で何かが爆ぜた。
自分のとは違う熱いぬるぬるしたのが、パンツを濡らし、腿に跳ねる。
下着越しの射精。
列車が減速し、駅のホームに滑り込む。
おじさんは手早くポケットティッシュでオチンチンを拭い、丸めて床に捨てていた。
もう、今あたしにオチンチンを握らせてスペルマぶっかけた痴漢には到底見えない、誰に言っても信じてもらえない、どこから見ても品行方正な紳士。
「スケベな妄想も程々にな、お嬢さん」
流れる人の群れの中に紛れて消えていく黒い影。
その姿を目で追いながら、あたしは泣いていた。
何で泣いているのかわからなかった。
ただ、毎晩の日課だった大将との夢想は二度とない事だけはわかった。
今夜からあたしの夢想の相手は、あのサングラスのおじさんになってしまったのだから。
おじさんの指の感触を思い出して、処女のままイカされた身体がズクリと疼いた。