早起きは三文の得?
「いってきまーす」
その日、亜矢はいつもより早い時間に家を出て電車に乗った。
ただ昨日、ごろごろしているうちに寝てしまい、早朝に目が覚めただけだ。深い理由はなかった。
(たまには早めに学校行って、ついでに昨日出来なかった課題やっとこう…)
ただそんな軽い気持ちで乗った電車で、彼女は知らない世界へいくことになる。
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電車のドアが閉まる直前に駆け込むように飛び込んで、亜矢は安堵のため息をついた。
(ふぅ、この時間て結構混むんだ…知らなかった)
亜矢の目線の先は背広姿のサラリーマンやOL、私服姿の大人で埋め尽くされている。
田舎のローカルラインでもラッシュ時はそれなりに混むのは知っていたが、亜矢の利用する時間は学生しか乗らないため空気がまったく違う。
何となく気後れして肩を竦め、彼女はドアの外を眺めながらバッグからMP3プレイヤーを取り出してヘッドフォンを耳にかけた。
二駅ほど過ぎた頃だった。
電車内の混雑は早くもピークに達し、ぎゅうぎゅうとドアに押し付けられて顔をしかめた。
「痛っ…!」
ヘッドフォンから流れる音楽に集中していたせいか、右隣にいたはずの女性が降車していたことにも気付かなかった。
今はそこにまるで壁のような背中の男性が立ち塞がり、さらに亜矢の正面には背中を向けたサラリーマンがいる。
それほど背が低いわけでもない亜矢だが、周囲の平均身長が高いために車内の様子はまったくわからなくなってしまった。
(うぅ、降りられるかな…まぁ時間あるし、最悪乗り過ごしてもまた引き返せば、…あっ?)
がくん、と床が左へ傾いた。電車がカーブへ差し掛かったのだ。他の乗客たちも同じ方向へ一瞬傾ぎ、また元に戻った。
だがそれを機に亜矢の体に触れてきた何かがいた。
揺れが収まっても、元の場所へ戻ろうとする動きはない。
(え……な、に…?)
ちょうど亜矢の恥丘の部分をノックするように何かがつんつん触れている。まさか痴漢?と思ったものの、すぐに亜矢はそれを払拭した。
たしかに、今までに痴漢に遭ったことはある。けれどこの混雑だ。きっと鞄か何かが、たまたま当たっているだ…け…?
「ふぁ…っ」
違う。
その何かは、明らかに亜矢の想像と違う動きをした。掌で包み込むように、ミニスカートの上からデルタゾーンを握りこんできたのだ。
(鞄じゃない…手だ!)
慌てて脚を閉じようとして、足元に何かを差し込まれていることに気付いた。鞄だ。
咄嗟に亜矢はそれを前へ押しつけて逃れようとしたが、目前に立つ男の足ががっちりと鞄を固定していてびくともしなかった。
混雑で身動きもとれず、脚を閉じることも許されず、ささやかな抗議として身をよじっても意にも解されずに、亜矢の股間へあてがわれた手は絶えずに刺激を送り続けていた。
「やっ……っふ…」
掌全体で大きな振動を与えてきたり、爪でカリカリと敏感な部分を引っかいたり、トントンとノックしたり…
その刺激に徐々にどうしようもなく体が反応してくるのが、わかる。
(ちょっと我慢すれば駅に着く…あとちょっとだから…ぁ…っ)
声をあげるのは簡単だ。目の前の男を指差して、痴漢です、と叫べばいい。
だが羞恥心と恐怖感で、その簡単なはずの行為を実行に移すことは困難だ。
(とにかく我慢すれば大丈夫…っ)
カリカリカリ、…シュル。
(…あ…?!)
痴漢の手は、スカートを軽くたくしあげ、今度はショーツの上から亜矢を摩り始めてしまった。
亜矢の頬がさらに紅潮する。
(だ、だめ、やだぁっ)
恥丘を撫で、脚の間の奥へ――
(あぁ……っ!)
ちゅ…ぐちゅ。
予想外の水音に、亜矢のきゅっと閉じた口唇から泣き声の混じったような短いため息が漏れた。
同時に男も一瞬だけ満足げに息をついたが、ヘッドフォンをした亜矢にそれは伝わらない。
ただ赤い顔のまま俯き、どうしていいかわからずにじっと耐える。
(どうしよう…濡れちゃってるよ、そんなつもりないのに…!)
こんな弁解をしても痴漢には伝わらないだろう。現にショーツの状態を知った痴漢の手は、自信を持って動き始めた。
「…っく、…ぅ…!」
無法者の手は堂々と亜矢の臍の下からショーツの中への侵入を成功させ、陰毛を軽く撫でた後に先程ショーツ越しに触れた奥へと指を差し込んだ。
ぬるりとした感触。熱を持った粘膜に男の冷たい指が触れて、一瞬不覚にも心地良さを感じてしまった。
そのことがさらに、亜矢を混乱させる。
「―――ぅ、…はぁ…っ、ンぅ……」
的確に男の指は、亜矢のウイークポイントを掴んでいた。
亜矢のぬるつく粘液を指にたっぷりとすくい、割れ目の最上部にある突起、クリトリスへなすりつける。
亜矢の腰がひくつくのを確認し、ゆっくりと、しかし小刻みに円を描くように突起の周りを擦りあげた。
「……ひ…ッ!~~~ッッッ!」
くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ…
(な、にこれ、何これぇっ!?)
絶妙な愛撫。痴漢であるはずの男の指はあまりにも巧みに動き、性経験のあまりない亜矢に大量の快感を流れ込ませた。
「ぅ……はぅ…んく……っっ!」
限界まで声を殺し、耐え切れなかった分を短い吐息にして快感を押さえ込む。
しかし痴漢の指はさらに違う動きで亜矢を追い込んできた。
クリトリスを下の付け根から擦り上げるようにして、指で弾く。そして指二本を使って挟み込み、振動させた。
「ひっ、くぁ……ぁ……ッ!」
亜矢の背が弓なりにしなる。
(こんな…とこ、で、痴漢に…イかされる……っ)
後頭部を電車の壁に擦り付けて腰を突き出し、ガクガクと絶頂直前の快楽に酔った。
隣のサラリーマンが訝しげにちらりと振り返ったが、亜矢はそれに気付くことも出来ない。あと少し、もう、少し……
(も、イきそ…っ!あ、イくイくイくッッ!)
「ぁ……」
亜矢の頭の中でスパークがはじける直前、快感を与えてくれる侵入者はぴたりと動きを止めてしまった。
今まで触っていたクリトリスを解放してさらに上へ、そしてうっすらと土手を覆うヘアをさらさらと撫ではじめる。
(な、なんで…?もう、少し、なのに…っ!)
もじ、と膝を擦り合わせて催促したが、ヘアを撫でる手は下へ降りる気配を見せない。
もっと明確に欲しいものを示せ、さもなくば動かない。その手は亜矢の導きを要求している。
(も…っ、もうダメ…!)
亜矢はぎゅっと目を閉じた。
震える手を自らスカートの中へ忍ばせ、侵入者と同じ経路を辿ってショーツの中へ指を伝わせる。
大きな手に触れた瞬間にびくりと強張ってしまったが、その手の上に細い手を重ね、おずおずと先程の場所へ指先を導いた。
ここを触ってください、お願い、気持ち良くして、イかせてください…
自分は今、自分を辱める痴漢にそう直接伝えている。
恥ずかしい気持ちでいっぱいなのに、快感への期待が羞恥心を押し潰す。
しかし痴漢の指は導かれて期待の場所へ触れても、緩慢な動きしかしない。
亜矢の望みは、先程与えられた、あの激しい快楽だ。
(う、動いてぇ…っ!さ、さっきの…みたいに…)
指先で何とかそれを伝えようと、痴漢の指をとり自ら陰核をこすりつける。
その行為は、不審者の指を借りたオナニーだ。
太腿へ伝わる自身の粘液の気持ち悪さに身じろぎしながらも、亜矢は夢中で不審者の指を動かし続けた。。
(あ、違、もっと…ここ…を、ぅあ…)
くちゅくちゅ、にちゅ…
「ぁ……っ!―――ッくぅ…!!」
(イくイく、イく、ぅ…っ!)
背中を快感の波が駆け巡る。ブルリと身体を震わせて、出来るだけ小さく息を吐いた。
―――終わった。痴漢の手を使ったオナニーでイってしまった…。
急に怖くなって、亜矢は慌てて侵入者の手から離れようと……
(?!)
したが、今度は逆に痴漢の手が亜矢の手を握りしめた。
(え…?!)
痴漢に握られた指が、まだ熱く余韻の残る粘膜に触れる。
先程充分刺激した陰核へたどり着くと、先程亜矢が痴漢に指示した動きを今度は痴漢が再現し始めた。
(あ、やだやだ、あ…っ!)
にゅるにゅる、ちゅくちゅく…
(ま、また、気持ち良くなっちゃうよぉ…!)